デジタル化する未来:デジタルの進化が研究発表に果たす役割

学術誌出版は科学的発見・研究成果を人々に伝える役割を果たし、医療で良い成果を上げる機会につながっています。学術誌出版業界は変化するニーズに対応してきた中で、デジタル化は変化を起こす重要な要因になっています。この記事では、どのようにデジタル化が学術誌出版を向上させてきたか、また、テクノロジーの進化が出版の未来をどう形作るかについての専門家の見解を紹介します。*

学術誌出版へのデジタル化の影響

紙媒体の学術誌は幅広い読者に重要な研究成果を伝えてきましたが、インターネットの出現によって多くがオフラインからオンラインへと移行しています。2008年までには全STMジャーナルの96%が電子アクセス可能となりました。1 現在、研究や出版のあらゆる面にデジタル化が浸透しています。つまり、研究サイクル、共同研究、データ管理、ジャーナル出版の手順、コンテンツへのアクセスと見つけやすさ、研究の影響度評価などです。また、デジタル化が進んだことで、臨床研究に関わる出版社や研究者は新たな形態でコンテンツを発表したり、情報の見つけやすさや透明性を向上させたり、研究のアウトリーチを広げたり、影響度評価ツールを実行したりできるようになりました。

 新たな形式のコンテンツが出現

現在、医療従事者の63%以上がスマートフォンやタブレットを使って情報にアクセスし、約70%がオンラインで情報を検索していることをご存知ですか? 2 このため、製薬会社、医療関係企業、出版社は新たな形式のコンテンツを提供するマルチチャネルのマーケティング手法を採用しています。平易な言葉による抄録、ビデオ、科学的データをインフォグラフィックスを使って伝えるなど様々な手法をとっています。3こうして、医療従事者やその他のユーザーに 「カスタマイズされたコンテンツを彼らが選択した形式やプラットフォームで」提供します。4 エーザイ株式会社、CNSおよび泌尿器科部門アジア地域シニアリージョナル医療アドバイザーのAmitabh Dash氏は、「新しい形式のコンテンツは、正確な科学情報を理解されやすい方法で伝えるのを手助けしている」ため、こうしたコンテンツが未来を変えていくだろうと考えています。

コンテンツの見つけやすさや求心力をソーシャルメディアが提供

デジタル主導のイノベーションの好例は、ソーシャルメディアの各プラットフォームです。今では、研究の広報やコミュニティの結束のためにソーシャルメディアが使用されています。5 Altmetric (オルトメトリクス、影響度指標)研究・教育ディレクターのStacy Konkiel氏は、「科学者はただ論文を読むだけではもはや満足できず、コードを再現したり、データ分析をしたいと思っています。また、論文について共有したい意見を持っているときは、ブログに書いたり、ツイートするかもしれません。」総合診療・発達医療科の医師であり、 Journal  of   Paediatrics   and   Child   Health の編集委員を務めるChris Elliot氏は、ソーシャルメディアが果たす将来の役割について語っています。「今後数年内に、ソーシャルメディアに前向きな意見、支援、フィードバックを提供するピア・ツー・ピア (同僚同士の) グループが増えてくるでしょう。」

研究の透明性向上

デジタル化の浸透によって、研究者や製薬会社は臨床試験の実施計画書やデータセットなどのコンテンツをユーザーと共有できるようになりました。また透明性を向上することで、研究をより容易に再現可能にするという大きな目標を下支えします。Wiley 研究・出版倫理ディレクター、出版倫理委員会共同議長のChris Graf氏は次のように述べています。「私達の未来は、機密性を侵害することなく透明性を保つことを通して公正な出版プロセスを実施できるかどうかにかかっています。製薬業界は透明性のニーズに対応しています。製薬会社は、時間的制約があるにもかかわらず、臨床試験を登録しその結果を報告する義務を果たしているのです。」

 拡大する研究のアウトリーチと影響度を知るための手段が増える

ユーザーのニーズに合わせたコンテンツ提供がますます強調されるようになり、出版社や情報プロバイダーはアウトリーチやユーザー獲得への戦略を練るようになりました。Wiley、グローバルコーポレート営業、副社長のMartine Docking氏は、今後の出版界では、デジタル主導のイノベーションは「適切なマルチチャネルでのマーケティングや新情報を提供」するために活用され、デジタル技術は「医療のあらゆる面、つまり、臨床研究や臨床試験参加者の募集などの開発に関連する情報や、その結果の情報提供プロセスから、試験実施後の個人に合った医療や処方箋以外のサービスの提供、治療プロトコル情報を提供する実際のエビデンスまで、様々な面に行きわたるようになる。」と予測しています。

成果や影響度を測定するニーズの高まり

出版量が急速に増加するのに伴って、研究の影響度を評価するニーズも高まってきています。これが影響度指標(オルトメトリクス)の幅広い利用につながり6,7、成果を表す指標として確立しています。またデジタル化の進歩がImmediacy index、g-index、h-index、そして Eigenfactorなどの付加的なツールや指標に刺激を与えています。コンテンツの検索・発見、引用、アクセスのパターンがわかる新しい影響度指標(オルトメトリクス)は、最近、研究のアウトリーチを追跡するダイナミックな手法として登場しました。6,8 現在、従来の影響度指標と併せてこれらを使用することが一般的に推奨されています。Wiley アジア太平洋ソサエティパブリッシング副社長のDeborah Wyatt氏は、影響度指標の未来についての議論で、「研究費の公開審査は今後も続きますから、研究のコミュニティだけにとどまらず「影響度」を測定すること、また、治療結果、エビデンスに基づく政策変更、特定問題への一般的認識などの測定基準に焦点を当てることが不可欠です。」と述べています。

未来は、どうデジタル化するのか?

研究や出版プロセスの向上にテクノロジーが果たす役割は無視できないものです。Editage アメリカ事業本部代表取締役のDonald Samulack氏は、「テクノロジーは、データマイニングの手法を通じて私達のデータを管理する重要な役割を担う。」と考えます。Wyatt氏によれば、「私達が研究の影響度を測定する方法にも、今後さらに変化が訪れるのは間違いありません。」デジタル化は学術誌出版に劇的なイノベーションをもたらす一方で、研究者のコミュニケーションを本質的に変革しつつあります。今後も、デジタル技術に支えられたイノベーションは科学界、出版界のコミュニケーションやコンテンツ共有のあらゆる面で変化をもたらし、また、ユーザー獲得や影響力の拡大を牽引していくことでしょう。

*注記: この記事は、白書「デジタル時代の論文出版-研究者のコミュニケーション、コンテンツへのアクセス、未来の学習に関する見解」 に基づいています。この記事で使用される引用文は同白書からの抜粋です。白書の全文は こちらから閲覧できます。

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References

  1. Ware, M.; Mabe, M., 2015, An overview of scientific and scholarly journal publishing, 4th edition, International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers, The Netherlands https://www.stm-assoc.org/2015_02_20_STM_Report_2015.pdf
  2. Healthcasts, Whitepaper, The new rules of HCP engagement: 5 Strategies to consider in an evolving pharma landscape, http://media.mmm-online.com/documents/168/healthcasts_whitepaper_41894.pdf
  3. Meadows, A., 2013, The Evolution of Digital Publishing and its Formats, https://scholarlykitchen.sspnet.org/2013/12/06/the-evolution-of-digital-publishing-and-its-formats/
  4. Wiley Corporate Solutions, 2017, Helping HCPs access trusted content they need, https://corporatesolutions.wiley.com/helping-hcpsaccess-trusted-content-they-need/
  5. Lupton, D., 2014, ‘Feeling Better Connected’: Academics’ Use of Social Media, http://www.canberra.edu.au/research/faculty-research-centres/nmrc/publications/documents/Feeling-Better-Connected-report-final.pdf
  6. Altmetric, Scholastica, The evolution of impact indicators: From bibliometrics to altmetrics, https://www.opda.cam.ac.uk/file/evolution-of-impactindicators.pdf
  7. Wiley Corporate Solutions Blog, 2017, Maximize your study’s visibility by choosing the right journal, https://corporatesolutions.wiley.com/maximize-yourstudys-visibility-by-choosing-the-right-journal/
  8. Butler, J.S.; Kaye, I.D.; Sebastian, A.S.; Wagner, S.C.; Morrissey, P.B.; Schroeder, G.D.; Kepler, C.K.; Vaccaro, A.R., 2017, The evolution of current research impact metrics: From bibliometrics to altmetrics? Clin Spine Surg. 30(5):226–228.